2018年4月17日火曜日

『ラブレス』感想・ネタバレ こいつは驚くほどにクソばかり(褒め言葉)



ラブレスと聞くと、私なんかはブンブンサテライツの『TO THE LOVELESS』なんかを真っ先に思い出すのですが、今回はジワジワと期待していたアンドレイ・ズギャビンツェフ監督最新作のほうの『ラブレス』について書きます。



あらすじ


一流企業で働くボリスと美容院を経営するイニヤの夫婦。離婚協議中の2人にはすでにそれぞれ別々のパートナーがおり、新たな生活のため一刻も早く縁を切りたいと考えていた。2人には12歳の息子アレクセイがいたが、どちらも新生活に息子を必要としておらず、ある日激しい罵り合いの中で息子を押し付け合ってしまう。その翌朝、学校に行ったはずの息子がそのまま行方不明になり、彼らは必死でその行方を捜すが……。(映画.comより)



ネタバレなし感想



いはやは清々しいほど、どいつもこいつも自己中心的で笑ってしまいそうになりました。がはは。

それはメインキャラのジェーニャやボリスだけでなく、捜査に対してやる気0の刑事や、もっと細かいことを指摘すれば、レストランにて恋人と来ているのに、平気でナンパしてきた男に、名前と電話番号を伝える女性まで・・・揃いも揃っててめえが一番可愛いんでちゅと言わんばかりに、自己愛?が過ぎる連中がオールキャスト

そんな映画、普通に撮ったらただひたすらに不快なだけになるのですが、上手にロシア映画ならではの、途方もない冷たさや美しさが映り、かつ繊細なピアノの旋律で、俄然視聴に耐えうる内容となっています。それ目当てで見てもお腹いっぱいになりそう。

とにかく今作の主要キャラは、是が非でも自分が幸せにならなきゃ嫌なの!といわんばかりの振る舞い。子供か。

息子の押し付けあいだけでなく、息子がいなくなった事で、彼らが真っ先に心配するのは自分の保身。
普通の親なら仕事なんでほったらかして、泥まみれになりながら子供を捜すのに、ジェーニャは恋人の家で寝坊。ボリスは捜索に参加するも、息子の名前を一度たりとも呼びかけません。
もう頭の中には幸せいっぱい、お花畑が広がっているのに、「息子の失踪」という事態が、土足で踏みにじられているような状態でしょうか。本当にクズですねえ。

そんなクズ&クズの中でも、良識ある人々が出てくるのが救いのひとつ。
実在のボランティア集団を元にした、行方不明者捜索隊の人々や、失踪したアレクセイの友達、自分とは何の関係もないのに、一緒に捜索に協力するジェーニャの恋人。もっと細かいことを言うと、アレクセイの手がかりを集めるための張り紙に、まじまじと目を留めてくれる男性。

彼らのような人々が多ければ、もっと世の中が良くなるのに・・・と思わずにはいられません・・・


以下ネタバレ










ジェーニャのラストの言葉



アレクセイと思われる遺体を確認するシーンで、ジェーニャは泣き叫びながら「あの子は私が引き取るつもりだったのよ!」と激しく叫びます。
一見、感動的なセリフのように見えますが、ここにいたるまでの言動があまりにもひどかったので、私は普通に悲劇のヒロインぶっているだけにしか見えませんでした。

もう息子は見つからないと、この時点で諦めていたのかもしれません。
息子さえ戻ってこれば、世間体を気にせずに済むはずが、こうなったらもうめっちゃ被害者面して同情を買うしかねえ!と言わんばかりに迫真の演技!遺体安置室は瞬く間にプリマドンナの舞台と化しました。そしてとばっちりを喰らって流血沙汰のボリス・・・涙

そういう意味ではボリスは哀しいほどに正直な男です。
結局その場で泣き崩れるボリスですが、新しい生活でも、子供をまるでゴミのごとく邪険に扱う始末。反省の余地なし・・・

一方にジェーニャも恋人の家で暮らしていますが、会話はなくニュースも見ずにスマホをいじいじ。
ランニングマシーンに(なぜか寒いのにバルコニーに設置)乗って、自分磨きに勤しむのですが、その顔はどこか虚しげ。
彼女は自分が自己愛に傾倒しすぎていると気付き始めているのかもしれません・・・


結局アレクセイはどうなったの?


衝撃のラストと謳われた今作ですが、こういうテイストの映画では、めっぽうありがちな結末でした。

アレクセイは姿を消してから、一度も画面上に現れることさえなく、物語は終わります。
これは監督のこだわった演出のひとつで、こうすることで必然的に観客がアレクセイのことを思い出そうとする効果を狙ったそうです。

今作はあくまで自分の幸せだけしか考えない人間が、息子の失踪を気にどうなっていくのかという、過程を楽しむドラマ映画です。



夫婦の不仲さをめちゃくちゃ端的に表したドライブシーン。



ドライブというと楽しそうですが、離婚申請中の夫婦が乗り合わせてるんだからさあ大変。

息子が行方不明になっているというのに、ラジオでゴリゴリのロックチューンを流すクソ無神経な夫にも問題がありますが、禁煙と言っているのに意地でもタバコを吸おうとする妻。おまけにラジオがうるさいと文句を言うと、夫はむしろ窓を開けて邪魔をし、音楽のボリュームを上げるという幼稚さよ・・・ストレスMAXになった妻は「ああああああ!」と叫ぶ、これまた幼稚なリアクション。

よくあの密室だけで夫婦の不仲さをあんなふうに描いたなあと、たまげてしまいました。
何気にこの映画の中で好きなシーンのひとつです


まとめ


結局アレクセイの行方は分からぬまま、物語は終わりますが、ラストシーンでは、冒頭でアレクセイが引っ掛けたテープが、まだひらひらと枝に引っかかっているショットで終わります。
夫婦はこれからも自分しか愛せない不幸な人生だけど、アレクセイはどこかで悠々自適に過ごしているという暗示と勝手に受け止めることにしました。ガンバレよ!

それにしてもこういう内容って、どっちかというと日本よりな気もしていたのですが、(真っ先に思いついたのが、周りの迷惑も顧みずインスタ栄えを狙う人とか・・いやなんか違うな・・・)やっぱり世界共通なんですねえ・・・どこの国にもいるんだなあ・・・

どうでもいいこと


私が記憶している限り、確か前作『裁かれるは善人のみ』でもあったと思うのですが、ロシアでは冷蔵庫の上にテレビ置くのが流行っているんですか?凄く見ずらそう・・・

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