2018年3月20日火曜日

アカデミー受賞作『イカロス』を見たら予想の斜め上でヤバめな展開が待っていました。



本年度アカデミー賞ドキュメンタリー部門受賞作『イカロス』

ドキュメンタリー部門ではよくNetflixオリジナル作品がノミネートされることがあり、今作以外にも『ストロング・アイランド』という、実兄を殺された監督によりその事件の詳細と人種差別問題が描かれるという骨太な作品もノミネートされています。

肝心の『イカロス』がどんな内容かというと・・・



監督でアマチュアロードレーサーのブライアンが、かねてから憧れていたアマチュアロードレースに参加したけど、上位の奴絶対ドーピングしてるから、俺もしたってバレへんバレへん。みたいな動機からスタートする今作。

要するにドーピング検査をいかに簡単に欺けるかを、監督が文字通り体を張って証明するという、若干マクドナルドのスーパーサイズを3食毎日食ったらどうなるかを実証した『スーパーサイズミー』のドーピング版的ドキュメンタリー。


(この数十秒後、ゲロリンちょします。あとネタバレすると、夜にあそこの元気がなくなるそうなので、まだまだお盛んな方は要注意。)




ブライアンはサポートして、ロシア反ドーピング機関所長のグリゴリー・ロドチェンコフという、大変ひょうきんなおっさんに協力を仰いで、ドーピングプログラムをはじめ、管理も徹底して行うことに。

このあたりはまるでランス・アームストロングの再現でも見ているかのような生々しいリアリティを見せ付けられます。

ランス・アームストロングさんといえば、20代でガンを患うも不屈の精神で克服し、ロードレースに復帰するというそれだけでも凄い人なのに、勝つために手段を選ばなさ過ぎたゆえに、まるで息をするかのごとくドーピングするようになってしまった選手。

私は自転車なんて通勤手段程度にしか考えていないのですが、興味のある人はスティーヴン・フリアーズ監督の『疑惑のチャンピオン』を見ると、より一層、ブライアンがなぜここまでしてアンチドーピングを欺けるのか試したいのかがよく分かります。


(全くの余談ですが、ランスさんは結構自転車業界?で、今なお忌み嫌われる存在らしく、
おかげさまでこの映画のプロモーションに協力してくれる企業を探すのに、かなり苦労したんだとか・・・)

結論からすると、作中のブライアンやグリゴリーのへらへらした感じからすると、アンチドーピングを欺くなんて目をつぶってでもできそうな勢いだった。のですが・・・




この撮影の真っ只中、2014年ソチオリンピックにて、ロシアによる国家主導のでドーピングプログラムが実施されたことが、ドイツの公共放送によって報じられます。

そしてそのプログラムに関わった人物として、グリゴリーの名が挙がってしまったことで、事態は誰も想像していなかった展開へ転がっていきます。

いかんせんこのグリゴリーは、ロシア選手がパフォーマンスを向上させる薬物を検出することなく使用するのを助けるために、独自のシステムをロシアに持っていたのです。もう誰がどう見てもクロ。
「一緒にアンチドーピング騙そうねぇ~^^」といったゆるゆるな雰囲気はもうどこにもありません。

(おっさん2人が、どのおしっこをサンプルとして提出するか相談している様子。ここにミヒャエル・ハネケ監督がいたら大はしゃぎしそう


グリゴリーにもはや選択の余地はなく、ロシアに居続ければ間違いなく逮捕されるので、彼は形勢逆転を狙い、自らの地位や生活をなげうって、この事件の黒幕がスポーツ大臣のムトコや、果てはプーチン大統領容認の下行っていたと暴露することに。



グリゴリーは暗殺を逃れるために、ブライアンの助け(アマチュア自転車選手です)を借り、当時スノーデンの弁護をしたという敏腕弁護士を雇い、アメリカに亡命。
グリゴリーの暴露を聞いたWADA(世界アンチ・ドーピング機構)は改めて調査を実施します。
そしてロシア政府が、組織的なドーピングに関与していることを突きつけるのです。

ちなみにロシアがドーピングによってどれほどの成果を得たかを詳しく記載したサイトがコチラ(ヤバ過ぎ笑えない)

いかんせん、グリゴリーの身に危険がリアルガチで迫っていると痛感させられるのは、同じく組織ぐるみのドーピングに関与したとされる彼の友人の一人が、不審な死を遂げたと聞いたとき。

もはやあの時のきゃっきゃしていたグリゴリーの姿はどこにもありません。

彼は結局アメリカに亡命し、証人保護下のもと、ロシアに残してきた家族や愛犬に会えぬまま今も生活しているそうです。

肝心の彼の暴露も、政府の圧力でねじ伏せられ、映画公開時は、18年の平昌五輪にもロシアは普通に参加する予定だと記されていました。(でも実際は国を代表してではなく、個人としての出場しか認められないんでしたっけ?)





  • そもそも何がそんなに怖いのか
今作で一番玉ひゅんするのが、そんな暗殺なんか起こるわけないでしょと思ってたらガチで2人くらいドーピング報道後不審死を遂げているという事実。

もうこのあたりから、グリゴリーはまるで別人格になったかのようにシリアスになっていきます。

映画を見終わったときも感じたのですが、「てか何でこんなことになったんだっけ・・・」と一回思考が停止し、やがて「あ、アンチドーピング騙せるかやってみた的な内容だった!」と思い出したときも背筋がゾッとしました。まるで映画みたい(?)な展開です。

アンチドーピング余裕で騙せると思っていたら、まさかプーチン大統領に狙われる羽目になるとは・・・
さながら子供が火遊びしていたら、知らない人の家に火が移っちゃった・・・くらい監督とグリゴリーの表情が死んでいくのでした。



(既に堅気とは思えないオーラ)
  • ムトコめっちゃ怖い
組織ドーピングに関与したとされるムトコスポーツ大臣。
自分の命がヤバす・・・と悟ったグリゴリーは、ブライアンにどれだけ俺が今ばいやーなのかをムトコ大臣の名を出して、細かく説明してくれます。

「いいか、あの大臣は都合の悪い奴を消すことなんて、書類を提出するのと同じくらい簡単にやってのけるんだ。「そういやあのグレゴリーとか言う奴は、結構年配だろうし、疲れているだろう?明日の記事で彼の死亡記事を用意しておくといい」てな具合にな・・・」

スポーツ大臣めっちゃ怖っ。
リアルに『イル・ディーヴォ 魔王と呼ばれた男』を想像してしまいました・・・
あんなノリノリな曲にあわせて暗殺されたらたまりませんが・・・

  • 結論
軽い気持ちで火遊びは危険・・・



0 件のコメント:

コメントを投稿